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発明発見100物語

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ミツバチのダンスを解読したフリッシュ

みなさんは小学校で「ミツバチはダンスで仲間に花の場所を伝える」と習ったことがあるかもしれません。
でも、そのダンスの意味を本当に“言葉”のように解読した人がいることまでは、教科書にあまり書かれていません。

昆虫がダンスという方法でお互いに情報を伝え合っていることを見つけるなんて、すごいですよね。

その人は、オーストリアの生物学者 カール・フォン・フリッシュKarl von Frisch です。
彼は「どうしてハチは仲間を花に導けるのだろう?」という疑問を、情熱と緻密な実験でその答えを追い求めました。

フリッシュは、もの言わぬミツバチについて、注意深く丁寧な実験を行いました。

まずはミツバチが色を見分けていることを示す実験をどのように行ったか、見ていきましょう。

フリッシュは色々な色の色紙を用意しました。例えば青い紙の上に砂糖水を入れたお皿を置きます。そうするとミツバチは青い紙のあるところに降りてくるようになります。

ただこれでは、色を見分けていることにはならないとフリッシュは考えました。ミツバチは白黒で世界をみているかもしれず、濃淡を覚えているに過ぎないかもしれません。フリッシュは、色々な濃さの灰色の紙を並べてもミツバチが青い紙に降りてくることを見つけました。

また「青い紙には独特の匂いがついていて、それをミツバチが嗅ぎ分けているかもしれない」という指摘に対しては、色紙をガラス板で覆う実験を行なって匂いを覚えているわけではないということを示しました。

このような実験を行なって、ミツバチは人間とは異なって、紫外線を見分けることができる一方で、赤と黒を見分けることができないことなどを発見しました。

有名なミツバチのダンスについて、フリッシュはガラス張りの中が見える巣箱を作りました。

巣箱からほど近いところに餌を置いた場合、巣に帰ってきたミツバチは、円を描くように回りました。そしてそれを見たミツバチは、巣箱を出ると巣箱の周りに置いた餌を探しあてるのです。フリッシュは、この「円形ダンス」が「近くに餌があるよ」という合図であり、どちらの方角であるかは伝えていないことを突き止めました。

では、遠くに餌があるときはどうでしょう?帰ってきたミツバチは、体を左右に振りながら真っ直ぐ進み、そして8の字を描くような動きを始めました。これが「8の字ダンス(尻振りダンス)」です。8の字ダンスは垂直な平面でなされるのですが、フリッシュは、直線が鉛直下方向(重力方向)と作る角度が「巣箱から太陽に対する餌の方向」を示していること、直線部分の長さが「距離」を表していることを見抜きました。

たとえば「真っ直ぐ下に向かってダンス」すれば「太陽の方向に進め」、直線部分の動きが鉛直線との角度が30°となるように下方向であれば「太陽を右30°に見ながら進め」という情報になるのです。

フリッシュの結論は明快でした。——ミツバチは仲間に、太陽を基準とした角度と距離を、ダンスという形で伝えている。まるで言葉のような仕組みです。

最初、この発表は大きな批判を受けました。しかし、緻密な実験系と明快な結果。ついには誰もが認めざるを得ない事実となり、動物行動学という新しい学問の柱となったのです。

直線部分と重力方向の角度と太陽と巣箱の角度の間に関係があることを見出した時、また、直線部分の距離と巣箱から餌場までの距離に関係があることを見出した時、フリッシュはさぞかし嬉しかったでしょうね!

わかったぞ!という声が聞こえてきそうです。こんな発見ができたらいいですよね。

感銘ポイント

フリッシュの物語から学べるのは、「情熱」だけでなく、「批判を取り入れて検証する緻密さ」です。
だからこそ、今日わたしたちが教科書で当たり前のように習う「ミツバチのダンス」は、誰もが納得できる科学の知識になったのです。

フリッシュは1973年、ティンバーゲン、ローレンツとともにノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

感心・感銘体験は意欲を伸ばすのに重要なだけではなく、研究者になって論文を書いたりする上でとても重要です。 「この成果すごいな」と思ったことのない人が、自分がこれから出すはずの成果のどこが優れているのか理解して研究を進めることはほぼ不可能でしょう。 感心・感銘体験は「これができたら良い論文になるな」と感じとるのに必要な感受性を育てるのです。