日産自動車による急速燃焼エンジンコンセプトの樹立
「日本車は燃費がいい」と言われてきました。燃費がいいとは、要するに同じ燃料でより遠くまで走れることで、自動車の性能を考えるときにとても重要です。燃費が悪いと、燃料代が余計にかかってしまいますからね!
すっかり当たり前のようになっている日本車の高燃費ですが、背景にはどのような技術革新があったのでしょうか? 多くの自動車会社によって燃費を向上させるための様々な工夫がなされてきましたが、この物語では日産自動車による急速燃焼エンジンの開発に焦点を当てたいと思います。
日産自動車の研究者たちは「燃焼をもっと速くすれば、ガソリンをむだなく使えて、排ガスも減らせるのではないか?」と考え「急速燃焼」というコンセプトを打ち出しました。 エンジンの中には燃焼室があって燃料と空気を混ぜた混合気を送り込み、点火して爆発させます。爆発のエネルギーはピストンに伝えられます。ピストンが押し下げられ燃焼室の空間が小さくなったところで爆発が起き、ピストンが押し上げられるのです。 この時、爆発がゆっくり進んで、ピストンがすでに押しあがった状態でもまだ爆発が続いているようだとエネルギーの伝達効率が悪くなってしまうはずだ、だからなるべく短い時間で燃焼が完了するようにすれば、燃費が良くなるはずだ、というのが 急速燃焼コンセプトです。 このコンセプトに従ったのが日産が開発した「急速燃焼方式」です。燃焼室の形状とシリンダ内のガスの流れを工夫し、さらに、点火プラグを2つにして燃焼が一気に起きるようにしました。 その結果、混合気は短期間で燃えるようになり、燃焼効率が大幅に上がりました。燃費は10〜15%も改善し、しかも排ガスも減らすことに成功したのです。 この技術は「急速燃焼方式を採用した初めてのエンジン開発」ということで1978年の日本機械学会賞という賞を受けています。今でも受賞に関係する記事を読むことができますが、当時の自動車の最高燃費を記録したとあります。
日産自動車が先駆けて開発し、有効性を示した「急速燃焼方式」は、様々な形で自動車会社の燃費改善に取り入れられ、今でも燃費向上のための重要なコンセプトです。 「燃焼を急速にする方向で開発を進めれば、燃費向上につながる」という方向性を示した日産自動車の功績は大きいと考えられます。
当たり前に思っている日本車の燃費の良さは、実は長年の技術者の努力の結晶なのです。これを成し遂げてきた日本の技術力、すごいですね。
日本は資源を輸入して製品を作り、輸出して経済を発展させてきた国です。なんと日本の輸出額の10%は自動車が占め、品目としては首位をキープしています。 自動車関連業界も含めて日本は自動車産業で外貨を得てきた国なのです。急速燃焼エンジンは、日本の経済大国としての位置付けを支え続けてきたエンジンと言えるでしょう。
「技術の日産」と讃えられた日産自動車。苦戦が伝えられますが、頑張ってほしいですね!
感心・感銘ポイント
- 発想:燃焼をなるべく早く一瞬で終わるようにすれば、ピストンに伝わる力が最大化し燃費向上につながると考えた。
- 挑戦:先例がないのに開発に向かったところはすごいですね。今だったら、コンセプトの正しさが示される前に「本当にうまくいく証拠はあるのか?」などと難癖をつける上司があちこちにいそうですね。
- 工夫:燃焼室の形状やシリンダの形状を工夫、点火プラグを二つにするなど、エンジン構造にかなりの改良を加えた。
- 貢献:「急速燃焼コンセプト」の有効性を示し、このコンセプトが多くの自動車会社に採用されることにつながった。自動車が高燃費化し、日本の高度経済成長を支えた。